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東京地方裁判所 昭和42年(行ウ)31号 判決 1977年5月19日

原告 売野勇三 外六名

被告 東京都知事

主文

1  本件訴えのうち、別表二記載の訴外飯田貞一外二六名に対する清算金決定処分の取消しを求める部分を却下する。

2  原告らのその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告が昭和四一年四月一二日付で、東京都市計画第一一地区復興土地区画整理事業の施行として東京都北区王子一丁目三番地及び四番地の土地について、原告らに対し別表一記載のとおり、訴外飯田貞一外二六名に対し別表二記載のとおりした清算金決定処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二  被告

1  本案前

主文第一項と同旨の判決

2  本案につき

原告らの請求を棄却する。

との判決

3  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決

第二原告らの請求原因

一  被告は、旧特別都市計画法による東京都市計画第一一地区復興土地区画整理事業(以下「本件区画整理事業」という。)の施行者として、昭和二一年一〇月一日東京都北区王子一丁目三番地及び四番地の土地に関し、施行地区の告示をした。その後昭和二三年八月一〇日事業計画決定、同二七年六月六日換地予定地の指定(土地区画整理の施行に伴い同法による仮換地指定とみなされた。以下「仮換地指定」という。)をし、同四一年四月一二日換地処分(以下「本件換地処分」という。)を行い、原告らに対し別表一記載のとおり、訴外飯田貞一外二六名(以下「訴外人」という。)に対し別表二記載のとおり清算金の徴収及び交付の決定(以下「本件処分」という。)をした。

二  しかしながら、本件処分は後記第四の三記載のとおり違法であるから、その取消しを求める。

第三被告の答弁

一  本案前の申立ての理由

本件訴えのうち、原告らは訴外人に対する本件処分の取消しを求める原告適格を有しないから、本件訴えは不適法である。すなわち、

清算金は、ある特定の権利者の従前の土地(以下「従前地」という。)の評価とそれに対応する換地の評価との差を金銭的に清算するものであつて、当該権利者の清算金と他の権利者の清算金とは、論理的には全く無関係に決定されるものである。また清算金の決定は換地処分の内容の一部として、各利害関係人に対する換地処分通知により行われる。したがつて、それは各利害関係人に対する関係では相互に全く別個独立の処分であつて、全体として一個の処分があるわけではない。原告らは、自己に対する本件処分に不服があるならば、自己に対する処分のみを争えば足りるのであつて、訴外人に対する処分まで争う必要はないというべきである。

二  原告らの請求原因に対する認否

請求原因一の事実は認めるが、同二の主張は争う。

三  被告の主張

1  本件換地処分における従前地

(一) 従前地の経緯について

(1) 原告らは、被告が仮換地指定を行う以前から、北区王子一丁目三番の一ないし六、九及び同一丁目四番の一、二、七の土地(以下「本件分筆前従前地」という。)を含む国電王子駅前の土地に多数の者らとともにバラツク建のマーケツトを建築し、右土地を不法占有していた。そして、右不法占有者のうち原告らを含む一部の者によつて昭和二六年に設立された王子起業株式会社(以下「訴外会社」という。)は、漸次右不法占有地を買収し、昭和二七年八月には本件分筆前従前地について所有権を取得するに至つた。

(2) 次に、昭和二九年七月一三日に至り訴外会社は、右三番の一ないし六、九の土地と四番の二、七の各土地とをそれぞれ合筆したうえ、三番の土地については同日付で三番の一と三番の一〇とに分筆した。

さらに、訴外会社は、昭和三〇年八月二七日に右三番の一の土地を三七筆に分筆するとともに、同日付で四番の一の土地を四筆に、合筆後の四番の二の土地を一一筆の土地にそれぞれ分筆した。

訴外会社は右分筆登記後施行者たる被告に対し、原告らの同意書の添付された右土地の分筆承認願を提出するとともに、分筆に伴う換地変更願を提出した。そして訴外会社は、昭和三〇年八月二七日から同三八年九月二日にかけて別表三「従前地」欄記載の土地(以下「本件従前地」という。)を原告らに譲渡し、所有権移転登記手続をしたものである。

(二) 従前地の取扱いについて

(1) 以上述べたとおり、本件では被告が仮換地を指定した後換地処分を行うまでの間に、土地所有者たる訴外会社によつて本件分筆前従前地が多数に分筆され、しかも右分筆後の各土地が原告らを含む多数の者らに譲渡されたものである。このような場合、原則として施行者は登記簿上分筆された後の各土地をそれぞれ従前地として取り扱い、右各土地につき照応原則に従つてそれぞれの換地を定めなければならない。

しかし、本件の場合、原告らが現実に取得した土地は、本件区画整理事業の運行に伴い既に換地としての形態をなしていた仮換地自体であり、したがつて本件換地処分時には、現在の換地とされた土地を既に原告らはそれぞれ使用収益していた。そこで被告が右のような事情を全く無視して、本件従前地に照応する換地を指定したとすれば、それによつて原告らは、必ずしも原告らが現実に使用収益している土地を換地として指定されるとは限らなかつた。けだし、従前地の分筆は、原告らの仮換地上の現実の使用状況に照応するようには分筆されていなかつたからである。

そこで、原告らは、本件従前地の位置・形状とはかかわりなく現に使用収益している土地を換地として指定するよう被告に対し換地変更願を提出したのであり、被告は右願に応じて原告らの換地を指定したのである。

(2) 以上述べた従前地の所有権移転及び分筆の経緯に照らせば、被告としては、訴外会社によつて分筆された後の登記簿上の各土地が、原告らが不法占有して実際に使用していた土地の状況と一致するかどうか、あるいは原告らが現に仮換地上に移転後使用していた状況と一致するかどうかにかかわらず、あくまで登記簿上分筆された各土地を従前地として取り扱わざるを得ないのである。そして原告らについての従前地が、訴外会社によつて分筆され、原告らが登記簿上譲渡を受けた各土地である以上、右各土地とそれぞれに対応する各換地との評価に基づいて清算金を算定すべきこととなる。

2  清算金の算定について

(一) 清算金の算定方法

(1) 清算金を算定するには、まず宅地を評価しなければならないが、東京都及び東京都知事の施行する土地区画整理事業における土地の評価は、路線価式評価法によつて行われている。

路線価式評価法とは、街路毎にこれに接する標準画地(街路に直角に接し、その平均的利用価値が最高とみなされる矩形地)を選定して、その単位面積当りの価格(路線価)を定め、さらに個々の画地の特殊性を考慮して、これに増減する価格を付加し又は控除して当該画地を評価する方法である。

路線価式評価法による土地評価は、具体的には次のように行われる。

イ まず各路線について路線価を決定し、次に、当該施行地区又は工区における施行前の路線価の最大価を一〇〇〇(個)として比較換算した指数を各街路について表示する(以下、これを「路線価指数」という。)。

ロ 次に、各々の宅地を評価するために、右のようにして決定された当該画地の接する街路の路線価指数に、当該画地の奥行長に応じた奥行逓減割合(盲地の場合は、単独奥行百分率)を乗じて平方メートル当たり指数を求め、右指数に当該画地の地積(従前地については基準地積)を乗ずることによつてその指数を算出する。さらに、当該画地が標準画地に比べて修正すべき事項(間口狭少、不整形、袋地、盲地等)があれば、それぞれ修正が加えられる。

ハ 右のようにして算出された総指数に指数一個当たりの単価(以下「単価」という。)を乗ずることによつて、はじめて当該画地の評定価額が得られる。

(2) 評定価額が得られると、従前の宅地及び換地についてそれぞれ右のようにして算出された各画地の評定価額を合計して施行地区内のすべての従前の宅地及び換地についてそれぞれの宅地価額の総額を求める。次に、当該施行地区又は工区において交付すべき清算金と徴収すべき清算金の総額を等しくするために、換地についての宅地価額総額の従前の宅地価額総額に対する比(以下、これを「比例係数」という。)を求め、この係数を従前の各宅地の評定価額に乗じて、それぞれ比例権利価額を算定する。この操作によつて、従前の宅地の比例権利価額の総額と換地の評定価額の総額は等しくなる。

右の結果、各宅地の清算金は、従前の宅地の比例権利価額と換地の評定価額との差となり、したがつて、従前の宅地の比例権利価額が換地の評定価額より高額の場合は、交付清算金となり、これと逆の場合は徴収清算金となる。

(二) 従前地の基準地積

(1) 換地計画において換地及び清算金額を定めるための基準となる従前地の地積(いわゆる基準地積)の決定方法について、本件区画整理事業においては、施行規定でこれを定めている。

この施行規程第一五条によると、基準地積決定の基準となる日(以下「基準日」という。)は昭和二一年九月一〇日とされ、基準地積は大略次のとおり決定されることになる。

イ 従前の土地各筆の地積は、昭和二一年九月一〇日(土地台帳締切期日)現在の土地台帳による(同条第一項)。

ロ 知事は、適当と認める区域について実測地積と土地台帳地積との間に差異があるときは、実測地積を第三項の規定により査定した土地及び土地台帳締切期日前にその地積を実測訂正したと認める土地並びに土地台帳締切期日後あらたに土地台帳に登録した土地以外の土地各筆の土地台帳地積に按分してその地積を定める(同条第二項)。

(2) 本件区画整理事業区域については、右のロの方法により実測した結果増加があつたので、この増加分を従前地各筆に割り振つた結果、台帳地積より若干増加したものが基準地積として決定採用された。

ところで、本件従前地は、基準日現在においては、地番としては存在せず、基準日現在存在した原告らの各従前地と関連する土地は、別表四のとおりである。

その後、これら関連する各土地が分合筆され、昭和三〇年八月二七日に至つて、本件従前地が誕生したものである。この場合、本件従前地の基準地積は、基準日現在存在した右記の関連する各土地について決定された基準地積を基にして、その後の分合筆の経緯にしたがい、一定の比率で基準地積を配分して算出されたものである。

(3) 次に具体的算出経過は次のとおりである。

イ 施行者である被告は、基準地積決定に当たつて本件区画整理事業区域を五区域に分けて、それぞれ実施したが、本件従前地の属する第四区域については、按分更正の対象となる土地の実測地積は一四、九五六坪六七であり、按分更正の対象となる土地の台帳地積は、一四、六七五坪一〇であつた。

そこで第四区域の按分率は14956坪67/14675坪10=1.0191869となる。

ロ 本件従前地と関連する前記各土地の登記地積及びこれに右の按分率を乗じて得た基準地積は、別表のとおりである。

ハ その後の本件従前地の誕生に至る分合筆の経緯及びこれに伴う本件従前地の基準地積の算出経過も同じく別紙のとおりである。

(三) 原告らの土地評価の前提となる総指数の算定方法

本件従前地及び換地の総指数は、路線価(指数)に奥行逓減割合と各種修正率を乗じて平均坪当たり指数を求め、これに各土地の地積(従前地については(二)で述べた基準地積)を乗ずることによつて算定したものである。

そして、被告は、右総指数を算定するのに必要な各要素を、従前地については別表五、換地については別表六のとおり認定したものである。

なお、比例指数と単価は、次のとおり算定した。

比例係数=換地の総指数÷従前地の総指数=28680694÷28894595≒0.992597196

単  価=整理後の平均相続税財産課税標準価格÷整理後の平均路線価=44998÷373.5≒120(円)

(四) 原告らに対する清算金の算定

被告は、以上の方法により算定した、本件従前地の総指数に単価及び比例係数を乗じて権利価額を、換地の総指数に単価を乗じて評定価額を、それぞれ別表七のとおり算定し、その差を清算金として算定したものである。

第四被告の主張に対する原告らの認否及び主張

一  原告適格について

原告らは、訴外人に対する本件処分の取消しを求める原告適格を有する。すなわち、清算金の徴収又は交付は換地処分の結果生ずる不公平を過不足なく公平ならしめるため、施行者が過不足額を不当に利得した者から徴収し、損失を受けた者に交付するものであり、清算金の徴収と交付の決定は密接不可分の関係にある。のみならず、本件処分においては清算金の算定基準を全く無視してされた点で、全体として本件処分の違法性が問題になるものであるから、原告らは訴外人をも含め、本件処分全部の取消しを求め得るというべきである。

二  被告の主張に対する認否

1  第三の三1(一)(1)の事実のうち、原告らは昭和二七年六月六日に被告が仮換地指定を行う以前から本件分筆前従前地を占有していたこと、原告らによつて訴外会社が設立されたこと、訴外会社が右土地を買収したことは認めるがその余は否認する。

同(2)の事実のうち、訴外会社が昭和二七年七月一三日及び同三〇年八月二七日三番及び四番の土地を分筆したこと、訴外会社は、被告に対し原告らの同意書を添付した分筆承認願を提出したこと、昭和三〇年八月二七日から同三八年九月二日にかけて原告らに対し右土地の所有権移転登記手続をしたことは認める。原告らが右土地の譲渡を受けた時期は争う。換地変更願の提出は知らない。

2  第三の三1(二)の主張は争う。

3  第三の三2のうち、原告らの換地の地番、地積が別表三「換地」欄記載のとおりであることは認めるが、その余の主張はすべて争う。

三  原告らの主張

本件処分は、清算金算定の方法を誤り、ひいては清算金額の算定を誤つた違法な処分である。

1  原告ら及び訴外人は、終戦後本件換地処分前の東京都北区王子一丁目三番地及び四番地の土地を占有していたが、被告が土地区画整理事業に協力するよう要請したので、昭和二四年二月、原告ら及び訴外人の出資によつて、右事業に協力し右土地を買い受け商店街を建設する目的で、訴外会社が設立された。同年四月訴外会社は右土地を買い受けたが、その目的は、右土地上に店舗を有する原告ら及び訴外人が土地構入を実現する便宜を図るためにほかならなかつた。

つまり、本来なら原告及び訴外人が個別に買い受けるべきところ、土地区画整理事業に伴う商店街形成という共同目的を達成する便宜上訴外会社名義で右土地を買い受けたものである。

2  その後原告ら及び訴外人は、右土地の位置、地積、利用状況、環境等を充分に考慮し、右土地を一等級ないし三等級に分け、右等級基準により三・三平方メートル(坪)当たりの価格を一等地二五、〇〇〇円、二等地一七、〇〇〇円、三等地一二〇〇〇円とし、右基準価格によつて既に作成済の地区割りに基づいて各人の希望する宅地を訴外会社から購入した。

3  したがつて、仮換地指定がされたときには、原告ら及び訴外人は、既に右土地につき等級に応じた価格を支払つて所定の区画を自己の所有としていたものであり、仮換地指定は実質的には原告ら及び訴外人に対しされたものであつて、このことは、被告も十分了知していたところである。そして原告らが訴外会社から購入した土地は、従前から占有していた区画であつて、本件換地処分の結果と完全に符合する。

4  このように、原告らが右土地の等級基準を定め、その基準にしたがつてその使用する土地を買い受け、右買受けに係る土地上に仮換地指定を受け、次いで本件換地処分を受けるに至つた経緯にかんがみれば、本件換地処分に伴う清算金の算定は、右等級基準を実質的に考慮してされなければならないはずである。

しかるに、本件処分は右基準を無視し、分筆の際訴外栗原暢、脇田甲午が原告らに無断で作成した架空の分筆図を基準とし、これに示された土地を従前地とし、これと換地とを形式上対応させ、その不均衡を是正しようとしてされたものであるから、清算金算定の方法を誤り、ひいては清算金額の算定を誤つたものである。よつて、本件処分は土地区画整理法(以下「法」という。)第九四条に反する著しく不公平な処分である。

第五原告らの主張に対する被告の認否

一  第四の三1の事実のうち、原告ら及び訴外人がその主張の土地を占有していたこと、被告が土地区画整理事業に協力するよう要請したこと、訴外会社が設立され、右土地を買い受けたことは認めるが、その余は知らない。

二  同2の事実のうち、原告ら及び訴外人が訴外会社から土地を購入したことは認めるが、その余は知らない。

三  同3の事実は否認する。

四  同4のうち、本件処分が分筆図に示された土地を従前地として取り扱つたことは認めるが、その余は争う。

第六証拠関係<省略>

理由

一  まず、本件訴えのうち、原告らが訴外人に対する本件処分の取消しを求める原告適格を有するかどうかについて判断する。

法第九四条にいう清算金の決定は、事業施行地内の宅地について換地処分の結果生ずる不公平を過不足なく公平ならしめるため、従前地の評価と換地の評価との差を金銭的に清算しようとするものであつて、換地処分を受けた者に対し個別的に行われる処分であるから、原告らに対する本件処分に瑕疵があるとするならば、原告らは各自が自己の受けた処分の取消しを求めれば足り、訴外人に対する本件処分を取り消さなければ原告らが救済を受けえないという筋合のものではない。

原告らは、本件処分においては全体としてその違法性が問題となるから、本件処分全部の取消しを求め得ると主張する。しかしながら、原告らは、原告らに対する本件処分が取り消されることにより救済されるのであつて、訴外人に対する本件処分の存続により何ら不利益を受けることはないというべきである。したがつて、原告らは訴外人に対する本件処分の取消しを求める原告適格を有しないから、本件訴えのうち、訴外人に対し本件処分の取消しを求める部分は不適法である。

二  原告らの請求原因一の事実は、当事者間に争いがない。

三  そこで本件処分に清算金算定の方法を誤り、ひいては清算金額の算定を誤つた違法があるかどうかについて判断する。

1  成立に争いのない乙第一号証の一、第二号証の一、第二号証の四、第五号証、第一五号証、第一六号証、原告本人小島久三郎の尋間の結果(第一回)により真正に成立したと認められる甲第三号証、証人木股正雄の証言により真正に成立したと認められる乙第一号証及び第二号証の各二、三、証人佐藤弘の証言により真正に成立したと認められる乙第四号証、証人飯田貞一、同栗原暢(後記採用しない部分を除く。)、同木股正雄、同佐藤弘の各証言並びに原告本人小島久三郎の尋間の結果(第一、二回。後記採用しない部分を除く。)を合せると、本件処分に至る経緯につき次の事実を認めることができる。

終戦後原告らを含む約七〇名は、国電王子駅前にある東京都北区王子一丁目三番地、四番地の土地を不法占有し(原告らが右土地を占有していた事実は、当事者間に争いがない。)、バラツク建の店舗を構えていた。被告により昭和二一年一〇月一日東京都市計画第一一地区復興土地区画整理事業の施行地区の告示、同二三年八月一〇日事業計画決定が行われ、右土地も区画整理の対象となつたため、原告らも本件区画整理事業に協力するよう求められた(右の事実は当事者間に争いがない。)。原告らを含む約五〇名は、右土地を買い取つて不法占有の状態を解消することとし、昭和二六年三月土地の購入及び商店街建設の目的で訴外会社(代表取締役栗原暢)を設立した(訴外会社設立の事実は当事者間に争いがない。)。そして訴外会社は順次本件分筆前従前地を各地主から買い受けた(右買受けの事実は当事者間に争いがない。)が、本件区画整理事業が進行中であり、近い将来仮換地指定が予定されていたため、そのころ原告らを含む五〇名は、被告の出先機関である東京都第四復興区画整理事務所長の行政指導により、後日仮換地指定された地域(乙第五号証に示された地域)を地区割りし、各人の希望する区画にそれぞれ移転し、建物を建築した。訴外会社は右土地を担保に銀行から融資を受け、右五〇名が連帯保証人となり、同人らは、各自が使用収益している区画の位置、環境等を考慮し、右土地を一等級ないし三等級に分け、坪当りの価格をそれぞれ二五、〇〇〇円、一七、〇〇〇円、一二、五〇〇円と決め、これにより算定した各区画の価格に相当する金員を遂次銀行に返済して行つた。したがつて、昭和二七年六月六日右三番、四番の土地に対し仮換地指定が行われた当時、原告らは既に仮換地上の各区画を使用収益していた。その後、分筆のうえ各人別の所有権の登記を求める右五〇名の希望により、昭和二九年七月一三日及び同三〇年八月二七日訴外会社は、買い受けた土地を分筆することとし(右同日分筆したことは当事者間に争いがない。)、三番の一ないし六、九を合筆して三番の一とし、これをさらに三番の一、一〇に分筆し、四番の二、七を四番の二に合筆し、さらに三番の一を三七筆に、四番の一を四筆に、四番の二を一一筆の土地に各分筆し、昭和三〇年八月二七日から同三八年九月二日にかけて訴外会社から原告らを含む五〇名に所有権移転登記手続が行われた(原告らに対する右登記手続の事実は当事者間に争いがない。なお、原告らが所有権移転登記手続を受けた土地の地番、地積は、別表三「従前地」欄記載のとおりである。)。右分筆手続は訴外会社に一任されており、訴外会社では右五〇名から預つた認印を用いて分筆同意書を作成し、これを添付した分筆承認願及び換地変更願を東京都第四復興区画整理事務所長あて提出した(同意書添付の分筆願の提出の事実は当事者間に争いがない。)。当時分筆手続が終了していたため同所長は右同意書にこの変更によつて生ずる地位の差の清算については異議ない旨を記入させたうえ、昭和三一年六月四日承認した。右換地変更願は、右分筆後の各土地に照応する換地を指定すると原告らは建物の移転等使用収益の現状を変更する必要があるため、現に使用収益している区画の土地を仮換地として指定するよう要望したものであつた。そこで被告は訴外会社の換地変更願と原告らを含む五〇名の利益を考慮し、前記のように分筆された三番、四番の土地を従前地として本件換地処分をした。その結果原告らは、別表三「従前地」欄記載の土地に対応する土地として同表「換地」欄記載の土地の換地を受けた(原告らが右土地の換地を受けたことは、当事者間に争いがない。)。ところが原告らは、前記のとおり仮換地指定前から仮換地指定地とされた土地を使用収益していたため、原告らが訴外会社から所有権移転登記手続を受けた土地は換地と一致するものと考えており、そのため本件処分についても不満を有するに至つた。

証人栗原暢の証言、原告本人小島久三郎の尋問の結果(第一、二回)のうち、右認定に反する部分は前掲各証拠に照らし採用し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

2  右認定の事実によつてみると、被告が仮換地指定をした後本件換地処分を行うまでの間に、土地所有者たる訴外会社により本件分筆前従前地が多数に分筆され、分筆後の各土地が原告らを含む多数の者に譲渡されたものであるから、原告らの認識はともかくとし、登記簿上分筆された後の各土地を従前地としてこれに対する換地処分がされたものとせざるをえないことは明らかである。したがつて、右各従前地とそれに対応する各換地との評価に基づいて清算金の算定を行わなければならないこともまた当然である。

3  これに対し原告らは、仮換地指定当時既に等級に応じた価格を支払つて所定の区画を買い受けており、右買い受けた土地につき仮換地指定、本件換地処分を受けたのであるから、清算金の算定についても前記の等級基準を実質的に考慮すべきであると主張する。

右原告らの主張は、ひつきよう換地と従前地との範囲は一致するとの主張に帰着するものあるが、前掲乙第二号証の二、三の分筆届に添付された実測図と前掲乙第五号証とを対照してみれば、右主張が理由のないことは明らかである。また原告らが主張する等級基準は仮換地指定地に対する一つの評価にほかならないから、これを従前地の評価として斟酌することはできない。

さらに、原告らは、分筆の際作成されたのは架空の分筆図であると主張し、証人飯田貞一、原告本人小島久三郎(第一、二回)はこれにそう供述をするけれども、前掲乙第二号証の二ないし四、証人栗原暢の証言によれば、本件従前地は当時の土地所有者である訴外会社の申請により公図を基に適法に分筆されたものであることは明らかであり、また分筆手続が訴外会社に一任されていたことは前認定のとおりである。しかして、分筆図に示された原告らの従前地と原告らが仮換地指定前現実に使用収益していた区画とは異なるけれども、それは前認定のとおり仮換地指定をひかえていたため、被告の指導により原告らが仮換地指定の予定地を事実上使用収益していたためにほかならないというべきである。

なお、証人飯田貞一の証言及び原告本人小島久三郎の尋問の結果(第一、二回)によれば、分筆同意書にされたこの変更によつて生ずる地位の差の清算については異議がない旨の記入は、原告ら不知の間にされたというのであるが、仮に右記入が原告らの意思に基づかないものであつたとしても、適法な分筆により原告らの所有に帰した土地がそれぞれ本件従前地である以上、右記入の有無にかかわらず、これらの評価と各換地との評価に基づいて清算金を算定すべきことは当然である。

したがつて、原告らの右主張は理由がない。

四  次に原告らに対する清算金額を算定することとする。

1  清算金額を算定するには、従前地と換地の評価額を求める必要があるが、証人佐藤弘の証言によれば、被告の施行する土地区画整理事業における宅地の評価については、いわゆる路線価式評価法が採用されていること、この方法によると、まず施行地区内の各街路について路線価を決定し、これを路線価指数に換算し、各画地につき、奥行逓減割合や盲地等各種修正率を乗じて坪当りの指数を算出し、これに各画地の地積を乗じて総指数を算出したうえ、指数一個当たりの単価を乗じて金額に換算すること、単価については相続税財産課税標準価額、固定資産税課税標準価額、売買実例を斟酌して決定すること、かくして従前地と換地の評定価額が求められるが、さらに当該施行地区において交付すべき清算金と徴収すべき清算金の総額を等しくするために比例清算方式が採用されていて、従前地の評定価額に比例係数を乗じて比例権利価額を算定し、これと換地の評定価額を比較して清算金額を算定していることが認められる。

しかして、路線価方式による宅地の評価は、固定資産、相続財産の評価等に採用されており、土地区画整理における清算金の算定について右の方式によることは、法第九四条の趣旨にかなう合理的な方法というべきである。

2  原告らの換地の地積が別表三「換地」欄記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

従前地の地積の決定方法について、成立に争いのない乙第一七号証によれば、東京都市計画復興土地区画整理事業施行規程第一五条には、「従前の土地各筆の地積は、昭和二一年九月一〇日(土地台帳締切期日)現在の土台帳地積による(同条第一項)。知事は、適当と認める区域について実測地積と土地台張地積との間に差異があるときは、実測地積を第三項の規定により査定した土地及び土地台帳締切期日前にその地積を実測訂正したと認める土地並びに土地台帳締切期日後あらたに土地台帳に登録した土地以外の土地各筆の土地台帳地積に按分してその地積を定める(同条第二項)。」と規定されていることが認められる。

ところで、前掲乙第二号証の二、三、第一六号証、成立に争いのない乙第七号証ないし第一四号証、第一八号証に本件口頭弁論の全趣旨を合わせると、原告らの各従前地は、基準日現在においては地番として存在せず、基準日現在における王子一丁目三番ないし六、九の土地及び同四番の二、七の土地が前示のように分合筆され、本件従前地が生じたこと、本件従前地の属する第四区域については、按分更正の対象となる土地の実測地積は一四、九五六坪六七であり、按分更正の対象となる土地の台張地積は一四、六七五坪一〇であつて、実測地積と台帳地積との間に差異があり、前記施行規程第一五条第二項が適用される場合に該当すること、したがつて、従前地の基準地積は基準日現在のこれと関連する土地(三番の一ないし六、九、四番の二、七)について決定された基準地積を基にし、その後の分合筆の経緯にしたがい按分率を乗じて算出すべきものであること、原告らの従前地の属する第四区域の按分率は一・〇一九一八六九となること、右三番の一ないし六、九、四番の二、七の土地の台帳地積及びこれに右按分率を乗じて基準地積を算出し、前認定のその後の分合筆に伴い原告らの各従前地の基準地積を算出すると別紙の計算過程により別表三「従前地(基準地積)」欄記載のとおりとなることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

3  前掲乙第四号証、第五号証、成立に争いのない乙第六号証の一ないし三及び証人佐藤弘の証言によれば、原告らの従前地の路線価、平均坪当たり指数は別表五記載のとおり算出され、換地のそれは別表六記載のとおり算出されたこと、単価は一二〇円と算出されたこと、比例係数は換地の総指数を従前地の総指数で除し、〇・九九二五九七一九六となることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

4  以上により得られた従前地の平均坪当たり指数に基準地積を乗じて総指数を算定し、これに単価及び比例係数を乗ずると各従前地の権利価額は別表七「権利価額」欄記載のとおりとなる。また換地の平均坪当たり指数に地積を乗じて総指数を算定し、これに単価を乗ずると各換地の評定価額は別表七「評定価額」欄記載のとおりとなる。そこで右評定価額から権利価額を控除し原告らから徴収すべき清算金額を算定すると、別表七「清算金」欄記載のとおりとなる。

5  したがつて、清算金額の算定にも何らの違法はない。

五  よつて、本件訴えのうち、原告らが訴外人に対する本件処分の取消しを求める部分は不適法であるからこれを却下することとし、原告らのその余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 三好達 時岡泰 成瀬正巳)

(別紙省略)

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